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ひとり旅が好きで国内47都道府県を制覇。数年前に広告会社を早期退職後ぷらぷらしながら行った国。中華人民共和国、中華民国台湾、ラオス、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、モンテネグロ、アルバニア、ギリシャ(コルフ島だけ)等。地元の人が食べるものを食べ、美術館を見るのが良いですね!映画に関しては、やはり映画が必要とされていた黄金期の邦画が好き。溝口健二、小津安二郎、成瀬巳喜男、木下恵介、渋谷実、山本薩夫、新藤兼人、増村保造、森一生、三隅研次、久松静児等。 浦島太郎状態で迎えた2011.3.11 自分にできる事は少なく、考えた末除染作業に参加。しかし除染作業も一時中断し、瓦礫撤去作業と考え宮城へ来てみるが瓦礫撤去作業も一段落したようで…

2011年10月9日日曜日

増村保造の世界(監修:藤井浩明 ワイズ出版刊)


映画監督増村保造の世界 ~映像のマエストロ~映画との格闘1947~1986                       
                
 監修:藤井浩明(元大映企画担当。増村監督作品57作品中25作品をプロデュース)

 1999年 ワイズ出版刊(絶版) A4変形500ページ

主な内容:映画論文、映画雑誌などに書いた批評、自作解説、全57作品資料
増村監督と係わった俳優、スタッフへのインタビュー、証言、増村作品の助監督による対談等
増村フアンにとっては貴重な一冊。(私は図書館で借りました・現在43作品鑑賞済み)


増村保造(ますむらやすぞう)1924年山梨県甲府生まれ、1986年死去。東大法学部卒業後大映へ助監督として入社。その後学士入学で東大文学部哲学科へ再入学。溝口健二監督の助監督(新平家物語、楊貴妃、赤線地帯)市川崑監督の助監督(日本橋、処刑の部屋、満員電車)につく。論文が認められ、イタリアのチネチッタ国立映像センターへ留学。帰国後「くちづけ」で監督デビュー(主演:川口浩、野添ひとみ)。

エネルギッシュなスピード感ある演出で期待されるが興行成績は今ひとつ。第二作「青空娘」から若尾文子とのコンビ作品がスタートすることになる。「最高殊勲夫人」「氾濫」「美貌に罪あり」「女経」「からっ風野郎」「偽大学生」「好色一代男」「妻は告白する」「爛」「女の小箱より・夫は見た」「卍」「清作の妻」「刺青」「赤い天使」「妻二人」「華岡青洲の妻」「積木の箱」「濡れた二人」「千羽鶴」。

シリーズものになった「兵隊やくざ」「陸軍中野学校」の両作品も第一作目は増村監督がメガホンを取っている。大映の中では監督としてはプログラムピクチャーばかり撮らされ続ける監督よりは恵まれていたのだろうが、世間の評価は存命中はあまり高くなかったようです。

それは師事した両監督がキネマ旬報社のベストテンランキングの常連であったのに対し、増村監督は、1978年の「曽根崎心中」の2位が最高で、1976年「大地の子守歌」3位、1976年「華岡青洲の妻」5位、1958年「巨人と玩具」10位の全57作品僅か4作品のみのランキングである、必ずしも作品の質とランキングは比例するとは思いませんが、当時の映画好きな人々にもまだその作風が理解されなかったのかも知りません。

実際私も、意識して増村監督作品を鑑賞したのはここ数年で、一昔前にテレビの深夜映画枠で「兵隊やくざ」「陸軍中野学校」「このこの七つのお祝いに」等を監督名を意識せづに見ていたくらいなので…

しかし没後十年で評価が一変し、1996年NHK教育テレビでは二夜にわたり、「ETV特集スピードとエロス 映画監督 増村保造の世界」が放映される。その後2000年にはいってからは全国各地で増村監督特集や回顧上映が頻繁に行われ、日本映画界にモダニズムの息吹を与えた監督として正当に評価されており、今では海外(特にヨーロッパ)でも人気が高いようです。

個人的には「赤い天使」が一番好きです。公開当時はエログロ映画扱いされていたようですが、今では海外でも評価が特に高いようです。若尾文子の従軍看護婦の負傷兵に対する過度な献身やコスプレ?シーンも見ものですが、芦田伸介演じる軍医のニヒリズムもなかなかのものです。芦田伸介は増村監督の遺作になった「このこの七つのお祝いに」にも出演されています。

増村監督は現実の凌駕や情緒に寝そべらない映像つくりをモットーとしていたため、その対極にあった成瀬巳喜男、今井正両監督の作品を批評の中でも厳しく批判されています。まあ、成瀬作品も実は大好きな私は複雑な思いでありましたが…

しかし、映画の主人公が個としての存在を誇示する姿は、潔さを感じ現在の生き方にも通じるものがあります。増村監督は生まれるのが早すぎたのかも知れません。

あれだけコンビを組んでいた若尾文子がプライベートではほとんど付き合いがなかったようでこれといったエピソードがないのが意外な感じでしたが、「セックスチェック・第二の性」で映画初出演した緒方拳(その後三浦綾子原作の「積木の箱」では普通の教師役で出演)は増村監督に対する思い入れは強かったようです。タイトルは強烈ですが、内容はとても興味深いものです。

演出のトーンは後の大映テレビドラマの基調になるような感じです。ご存知の方も多いかと思いますが、「赤いシリーズ」「スチューワ-デス物語」の構成や演出プランを企画したのは増村監督です。映画の「兵隊…」「陸軍…」の一作目のようにそれぞれの初回の演出は増村監督がおこなったようです。それでその流れを他の演出家が引き継いでいく。

映画「黒の報告書」、テレビスペシャルドラマ「黒い福音」で主演し、大映テレビドラマの常連である宇津井健は「赤い衝撃」で手術室の廊下で妻の安否を気遣う夫が極限状態の中で、芸術家の個のエネルギーを爆発するシーンで夫がその場で踊りだす演出を、そこだけ切り取り、バラエティー番組で面白おかしく取り上げるのを批判していたのは説得力がありました。

偶然、数ヶ月前テレビ番組で堀ちえみが「スチューワーデス物語」の共演者と昔のシーンを懐かしむコーナーがあり、期待はしていませんでしたが、ドラマ自体の可笑しさを取り上げるだけで、本人も「一字一句台本のとおりに言わないといけないんです」などと増村監督の名前はおろか出演していた本人も演出意図を理解していなかったことがわかり、テレビに使ったエネルギーを人生の終盤映画に活かせなかったことが他人事ながら悔やまれます。


日伊合作「エデンの園」はイタリア人俳優、スタッフを使い現地スタッフの指摘に従い脚本を大幅に手直ししながら、当時増村監督は体調も芳しくはなく撮影に苦労した様子が窺がわれます。製作の熊田朝男は「エーゲ海に捧ぐ」の製作で名前を聞きますが、元大映の製作主任で、「くちづけ」「巨人と玩具」「不敵な男」「耳を噛みたがる女」(女経の第一話)の担当だった旧知の間柄だった方のようです。

あまり話題にもならなかった作品のようでしたが、ネットオークションで購入して何度か鑑賞しましたが、イタリアへの留学経験があるとは言え、やはり言葉の壁や限られた予算の中でやり繰りした跡が覗き見れます。デビュー作の「くちづけ」を彷彿してしいまいました。あれほどエネルギッシュでテンポのある演出は感じ取れませんでしたが、それ程悪くもありません。

泥棒家族の若い男と裕福な家族の美大生の出逢いから男が刑務所に入り離れ離れになりながらも最後は、増村監督が一貫として描き続けた女性の個としての生命に対する力強さをエンディングに感じ取ることができました。もちろん言葉は違いますがそれは「妻は告白する」で演じた若尾文子の叫びに通じるものがあります。

最後に、シナリオが完成していたにもかかわらず諸事情で映画化されなかった数本の未完成作品を是非観てみたかったと思います。

NHKBSプレミアム「山田洋次監督が選んだ日本の名作100本(家族編)に増村保造監督作品「暖流」が選ばれています。放送日未定


 
巨匠溝口健二監督の想い出を語る在りし日の増村保造監督。
余談ながら奥様は眼科医の方だったそうです。


増村保造監督の口癖    

≪映画監督は旧式の三八銃だけで、熱帯のジャングルの中でひとりぼっちで戦っている兵士のようなものだから















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