「羊の啼き声」(原題:I dashur amik) 英題 Dear enemy
2004年 92分
アルバニア=フランス=ドイツ (日本国内劇場未公開作品)
監督 ジェルジ・ジュヴァニ
脚本 ジェルジ・ジュヴァニ / ジミタル・ジュヴァニ
撮影 ナラ・ケオ・コサル
音楽 チョスタコヴィッチ
出演 ンドリチム・ジェパ(主人公ハルン)
ペーター・ローマイヤー(ドイツ将校フランツ)
ルイザ・ジュヴァニ(ヴェフイ)
ニナ・ペトリ(ゲルタ)
マルガ・チェペ(祖母)
ビリス・ハスコ(ホアキン)
ジェルジ・ジュヴァニ
アルバニア ティラナ出身 1963年生まれ
1986年ティラナ芸術アカデミー演劇科卒業後、数々の映画作品に助監督として携わる。91年短編映画「ブラック・アンド・ホワイト」で監督デビュー。93年「ラスト・サンデー」でモンペリエ地中海映画祭特別賞を受賞。
94年「ア・デイ・オブ・ライフ」95年「ラスト・ラブ」99年「ビジネス・フューネラル」がヴェネツイア映画祭で注目され2001年「スローガン」で第14回東京国際映画祭でグランプリを受賞。2008年「イースト・ウエスト・イースト・ザ・ラスト・スプリント」を発表。また過去に俳優としてのドラマ、映画出演がある。
残念ながら日本では全て劇場未公開。「羊の啼き声」は2002年度のサンダンス・NHK国際映像作家賞受賞脚本でNHK-BSで2006年5月11日に一度だけ深夜衛星劇場で放映された。
東欧でもかなり珍しいアルバニア映画です。個人的にアルバニアに昔から興味があります。ひとつはアメリカテレビドラマの「コンバット」第104話(敵中横断)のストーリーにヘンリー少尉がアルバニア兵の将校に変装して脱走をするという回で初めてアルバニアなる国を意識しました。
二つ目は1971年中華人民共和国が国連から、中華民国(現中華民国台湾)を追放する時にアルバニアが議案を提出した第26回国際連合総会2758号決議。通称「アルバニア決議案」ただこの二つが子供心にインプットされ続け、二度旅行に行ってきました。
私の知り合ったアルバニア人、近隣(マケドニア、モンテネグロ)に住む人も親切で好感が持てました。ヨーロッパの他の国であまり評判がよろしくないのは寂しいことです!
あらすじ及び感想
1943年のアルバニアのある地方の町から占領していたイタリア軍が連合国に降伏したため、撤退し始めるのですが、代わりに進駐してきたドイツ軍は逃げ遅れたイタリア兵を次々に射殺していきます。混乱した商店街から、食料品などを盗み出していた雑貨商の主人公のハルンは負傷したイタリア兵の頼みを渋々受け入れトラックの荷台に忍ばせます
大家族が住んでいる自宅の地下室にはパルチザンの兵士が匿われています。そこに本来は敵であった筈の負傷したイタリア兵が加わります。そしてドイツ軍の進駐を恐れてハルンの知り合いのユダヤ人の時計職人も新たに地下室の住人の仲間に加わります。その後ドイツ人将校のフランツがハルンの知り合いの男を通訳と介して相談を持ち込みます。ドイツ軍への食料、物資の調達です。当然断ることもできず引き受けることになるハルン。
誰にも分け隔てなく人と接すうハルンはドイツ人将校のフランツにも信頼され、ある日ハルン家を訪問します。慌てふためく家族と地下室の住人たち。しかしドイツ人将校のフランツも敵国の将校ではありますが、ひとりの人間としては紳士的な人物です。家族と地下室の住人はなんとか無事にその場を乗りきります。
その後、フランツの通訳をしていたハルンの知り合いの男も地下室の仲間に加わることになります。国籍(アルバニア、イタリア、オーストリア《長男の嫁》や宗教(ムスリム、キリスト、ユダヤ)も違う、人々が、生きるために一体となって懸命に協力しあう住人と家族の姿があります。
そして戦局がドイツ軍にとって不利な状況になります。撤収を始めるドイツ軍。フランツはお世話になったハルン一家のために羊を贈ることを思い立ちます。撤収の最中ハルン家の家の門を叩きます。門の前で待っているとそこで待っていたのはパルチザンの兵士でした。銃声が響き、羊の啼き声が辺りいっぱいに響き渡ります。
ハルンはフランツの最後を看取ります。地下室にいた住人たちも力を合わせて地中に埋葬してあげます。
次の日解放され町は歓喜に満ち溢れていました。ハルン家にも多くの人々が集まり、歌い、踊って喜びをわかちあっています。そこへ銃を持ったパルチザンの男たちが現れドイツ兵の味方をした罪でハルンを逮捕して連れ去ってしまいます。
後に残された人々は呆然として立ちすくんでいるだけです。
極限状況の中での人間の逞しさ。人としてのあり方を声高に叫ぶのではなく、自分自身に出来ることを自然体で行う意思の強さ。ハルンの生き方に多くのことを改めて考えさせられました。同じ民族が周辺諸国に点在するアルバニア人のジュヴァニ監督だからこそ、この映画の意味は重要だと思います。邦題の「羊の啼き声」は本編の一場面から名付けたのでしょうが、原題の「親愛なる敵」のほうが雰囲気が伝わる気もしますが…
このストーリーは監督の祖父がモデルとのことです。
※テレビ放映時、不覚にもタイマーの不調で全編見れずに、海外の動画サイトで観ました。「スローガン」「ラスト・ラブ」「ア・デイ・オブ・ライフ」もアルバニア語ですが観る事が出来ます。「スローガン」だけは英語の字幕がありました。
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